チーズケーキ
'08.12.24唯一の、たった一つだけの大きなチーズケーキがありました。
それが存在のすべてで、存在はチーズケーキだけで出来ています。
それ以外のものは何もありません。
空間も時間もないので3時のおやつに食べてしまうこともないのです。
チーズケーキしかないので、これがチーズケーキと言うことも本当はできません。
だって、それを言う人もいないし、言われるものもないのだから。
チーズケーキしかないのに、わざわざチーズケーキと言う必要もないのです。
ところが忽然と無明のナイフが登場し、唯一の「チーズケーキ」を切り刻み始めます。
その時、「あの」チーズケーキと「この」チーズケーキに分けられて、そして次々に滅茶苦茶にナイフが入り、何がなんだかわからないくらい大小のチーズケーキがたくさん出来てしまいました。
無明のナイフも次から次に増えてきて、それぞれが自分のケーキを争い始めます。
俺の、私の、あなたの、おまえの…これ、それ、あれ…。
挙句の果てに、それぞれのチーズケーキに別々の名前を付けはじめました。
勝手に色を塗り始め、自分のものだけ区別できるようにし、工場で大量生産できるように研究したり、専用の倉庫まで作って囲い込みます。
工場も倉庫もチーズケーキの切れ端を利用して建設しているのです。
世界はこうして誕生したのでした。
もう一度、この混乱した世界をあの唯一の、幸せなチーズケーキに戻したくても、「私たち」という人格は無明のナイフだから、何にせよ切ることしかできない…。
いや。
私たちは自分をナイフと思いこんでるだけで、本当はチーズケーキらしいから、本当はナイフなんかじゃないとわかれば、それは可能なのだろうけれど、でもこの切り刻まれた世界をどうやったら元に戻せるのだろう?
実は切り刻まれた欠片をすべて集めても、決して本当のチーズケーキには戻らないのですから。
……
ところで仏陀は、この切り刻まれた世界から、根源に向けて立ち上がり、すべてのチーズケーキを飲み込んでしまいました。
もちろん仏陀はナイフではなくて、チーズケーキであり、唯一のチーズケーキは仏陀そのものです。
仏陀はあなたも私もあれもそれもすべて飲み込んで…
チーズケーキだけが存在のすべてになりました。
……
でも実は…最初から最後まで、たったひとつのチーズケーキしかなかったですよね?
それが本当のこと。