प्रज्ञापारमिता
~仏教のおはなし~

小舟

'20.07.19

 小舟のなかで立ちあがりウロウロするな
 ぎゅうぎゅう詰めの小舟の中でウロウロすると
 大風の中で それはいつか転覆してしまうだろう

わたしたちは小舟の中に生まれ
小舟の中で育ち
そうして 小舟の中で死んでゆくのだろう

「大切なもの」を小舟の中に見つけ
「大切な人」を小舟の中に作り
「大切なこと」が他にもないものかと探し回る

そうやって大風に翻弄されている小舟の中に
私たちは人生の「すべて」を見出そうと
毎日毎日 目を皿のようにして探し回っている

しかし小舟は小舟
いつか乗組員は ひとり ひとり 海中に落ちていき
小舟もそのうち腐って沈んでしまうのだろう

海中に落ちた後も 私たちは小舟に残した「大切な」すべて
わたしたちの存在証明のすべてを気にかけて
小舟の縁をつかもうとし よじ登ろうとしている

でも 波は私たちの手を奪い からだをつかみ
大風に翻弄される小舟はどんどんと遠ざかり
大海の中で私たちは海を恨み 風を恨む

 小舟のなかで立ちあがりウロウロするな
 ぎゅうぎゅう詰めの小舟の中でウロウロすると
 大風の中で それはいつか転覆してしまうだろう

いずれ私たちにも海に飛び込まねばならない日が来る
その時に「大切な」すべてを まったく手放し切ってしまう
そして「大切な」すべても いずれ海に帰って行く日が来る

小舟の中に溢れる「大切な」すべて
それはほんとうに 「大切」 なのだろうか
すべてを忘れて探し回るほどに重大なものだろうか

そう それらは 「大切」 なものだ

いずれ私がそれらを手放してしまい
それら自身も海に帰って行くという意味で
とても愛おしく 暖かで 無限の価値がある 「大切な」すべてだ

ただその価値というものは
小舟の中でしがみつくうちに ほんとうの姿を見失ってしまう
そういう性質のものだ

いつまでもあり続けるとすれば
そんなものは美しくもなく 愛おしくもない
それはただただ ある というだけの形象でしかない

 小舟のなかで立ちあがりウロウロするな
 大風の中で 小舟の舳先から 荒れ狂う海を観よ
 その波の下にある 偉大なる静謐の大海を観よ

小舟の直下にある この大海の底からこそ
小舟とその中のすべては生まれ出で その価値のすべてが定められる
本当に「大切な」すべては 大海を通してしか その姿は見通せない

 だから

 小舟のなかで立ちあがりウロウロするな
 毎日毎日 目を皿のようにして探し回るな
 その波の下にある 偉大なる静謐の大海を観よ